ボルツマン分布を求める。


Spartanでは、立体エネルギーを基にスプレッドシート上に各配座のボルツマン分布を求める機能が付いています。
ひじょうに便利な機能です。

さらに”Boltz Avgs"を追加することにより、ボルツマン分布に重みをかけた平均値を求めることができ、簡単に理論化学シフトを求めることができます。
このときのボルツマン分布は立体エネルギーに基づくものでエンタルピー(僣)に相当するものです。
配座の自由度の低い分子ですと、このボルツマン分布で議論は十分出来るはずです。


しかし、配座の自由度が高い分子となると話が違います。
1,5-pentanediolで考えて見ます。

教科書的には全てがアンチ配座となったexpanded conformationが最安定配座と考えてしまいがちですが、HF/6-31G*で通常計算した場合、右の folded conformationが最安定配座となります。
室温における配座の存在比はexpanded:folded =86:14と計算されます。
理由は、水素結合を評価するからです。
この考え方は間違っていませんが、温度による振動を全く考慮する必要が無い絶対零度のときに成立する関係です。
即ち、通常の計算では立体エネルギーしか計算していません。
実際には自由エネルギーで議論する必要があり、自由エネルギーは
  僭=僣−T儡
であらわされ、通常の計算では僣の項のみで議論しています。
その理由は、小分子の場合儡に関する項目の変化量が小さく無視できる場合が多いからです。
しかし、配座の自由度が高い分子の場合、儡の項目も重要となります。
この項目は振動解析という方法が必要で、spartanでは振動スペクトル即ち、赤外スペクトルの計算を行えば計算されます。
ただし、計算時間は構造最適化の所要時間と同じかそれ以上必要です。

計算が終了すると僭、僣、儡の全てが表示可能になります。

しかし、デフォルトでの機能はそこまでです。相対僭や僭に基づくボルツマン分布についてはスプレッドシートで表示させるのは大変です。
私はエクセルで一連の作業を行います。

Label Relative Energy
(kJ/mol)
Boltzmann
Weights
(H)

(au)
ΔG°
(kJ/mol)
ΔG°
(kcal/mol)
Boltzmann
Weights
(G)
expanded form 0 14% -345.877245 0.00 0.00 1 89%
folded form -2.79 86% -345.875285 5.15 1.23 0.12473037 11%
1.12473037


上の表がエクセルで解析したものです。左から4行目まで(Label, Relative Energy. Boltzmann Weights,G°)がスプレッドシートからコピーしたものです。
エクセルでエネルギー差、そして単位変換を行います。
ボルツマン分布は
僭°(kcal/mol) = - R T ln (K)です。
298Kを想定して、 僭°(kcal/mol) = - 1.36 log (K),
即ち、K = 10( 僭/-1.36)により求めます。
エクセルではPOWER(10,僭/1.36)で求めることができます。
これを全体の存在率に計算しなおせばexpanded conformationが89%、folded conformationが11%と通常の計算とほぼ逆の答えになりました。
振動計算には時間がかかるので、環状分子のように配座自由度が低い場合はあまり考慮しなくて良いと考えています。